妖孤伝説 1
5人を乗せたジープを 八戒はブレーキを掛けて止めた。
おもむろに地図を広げると モノクルを掛けなおして しげしげと眺めている。
そろそろ日も傾き始める時刻 今夜は街に着けるはずだったが
いまだに森の中だ。
「どうしたの 八戒、何か不都合なことでも起きたの?」
リアシートの真ん中に座るが、八戒に尋ねた。
「どうやら 僕たち迷っちゃったみたいです。
おかしいですね〜、横道なんかなかったはずです。あのまま 道に沿って走れば
夕方には 街に着く予定だったんですが・・・・。
どうしましょうか?」
乾いた笑いで 誤魔化しながら 八戒がナビシートに座る 三蔵を見る。
「フン、適当な所で 野宿だな。」
その答えに 後ろの両サイドに座る2人から 激しい非難の声が上がった。
「え〜そんなのないよ〜。
今日こそは 街でおいしい物を食べれるはずだったのによ〜。
俺 もう腹が減って 死にそうだよ〜。」
「はっ 猿は判でも付いたように そればっかかよ。
それよりも酒だな。あと 綺麗なお姉さんが居る所へ行きてぇ。
ここんところ すっかりご無沙汰でよ。すご〜く寂しいんですけど・・・。」
悟浄の言葉に 八戒が振り向くと、その冷たい笑顔に 2人の口がピタッと閉じた。
「悟空 出来るだけ早く ご飯にしますから 我慢してくださいね。
それから 悟浄、の気持ちをもう少し考えた 発言をお願いしますね。
女性の前で 今の発言は 不適当ですよ。
後で 教育的指導を入れさせてもらいます。」
八戒の言葉に 2人は静かになった。
「ここに居ても仕方がないですし もう少し先に行って見ますか?
どうですか 三蔵。」
「勝手にしろ。」
「では このまま 先に行かせてもらいます。」
八戒は アクセルを踏んで ジープを発進させた。
は 大木の横を通った時 違和感を感じた。
誰も何も言わないので そのままにしてしまったが・・・・。
何処にもたどり着かないまま 夜になってしまった。
不意に 森の闇の中に 白い物がライトに照らされて見えて ジープは再び止まった。
それは 白っぽい服を着た女性だった。
年の頃なら20代半ばそれほどの器量良しではないが、可愛い感じのするタイプ。
突然のジープの出現に 驚いているようだった。
八戒は 車を降りて その人に近づくと、
「お怪我はありませんか? 大丈夫ですか?」と尋ねた。
女は 怯えているようで 八戒の問いに答えない。
はそれを見かねて 八戒の隣に歩み寄った。
「ごめんなさい、驚いたでしょう。
どこか怪我をしませんでしたか?
私たち 決して怪しいものではないので、安心してください。
お宅はこの近くですか? 良かったらお送りしますよ。」
女性のが話しかけたことで 安心したのか ようやくその女は口を利いた。
「あの 怪我はないので心配ないです。
ちょっと驚いただけですから・・・・、私は この先の村に住む者です。
皆さんは どうしてここへ?」
女は 警戒は解いていないが には 話す気になったらしい。
「私たち どうやら道に迷ったらしいのです。
あなたの住む村に 宿があればいいのですが どうでしょうか?」
「残念ながら 宿はありません。」
「そうですか。では 食堂はありますか?」
「本当に小さな村なので 何もないんですよ。
あの それほどお困りなら 今夜は私の家に お越し下さい。
何もないですが ご飯くらいはお出し出来ますし・・・・・・。」
「でも ご迷惑になりませんか?
私たち5人もいますし、食欲旺盛な未成年も同行させています。」
「はい 大丈夫ですよ。」
「そうですか、では お言葉に甘えさせていただきます。
あっ 私は と申します。
運転席の人が 八戒、助手席が 三蔵、リアシートの大きい方が 悟浄、
小さい方が 悟空です。よろしくお願いいたします。」
「失礼しました、私は 万葉と申します。」
一行は 万葉について 彼女の村へと向かった。
万葉と名乗った女を それまで が乗っていたリアシートの真ん中に乗せ、
は リムジンに乗って空からついて行った。
悟空は 一緒にリムジンに乗りたがったが、は1人乗っていた。
夜の飛行は危ないというのが 理由だったが、助けた女性から妖気を感じたため、
もし 待ち伏せとかされていて 2人が空中にいた場合、
戦闘に加勢することが遅くなるのを 心配したためだった。
4人は誰もが強いが、悟空はその中でもずば抜けて強い。
大事な戦力を 危険があるかもしれない今 ジープや三蔵から 離しておくのは
懸命ではないと 考えたからだった。
悟空がうらやましそうに こちらを見上げているのが見える。
は それを見て微笑むと 今度の時には 乗せてあげようと思った。
万葉の村について 彼女の家に着くと、6人は 居間でとりあえず落ち着いた。
そして どうして こんな夜更けに 森の中にいたのかを 尋ねた。
桃源郷の妖怪が 尋常でなくなってから 夜の森は特に危ない。
それを押してまで あの場にいたのには 何か訳があると思ったからなのだが、
万葉の答えには 一行みんなが 驚いた。
「私は 夫を捜して あの森に入ったのです。」
「人捜しだったんですか?
でも どうして 万葉さんお1人なのですか?
村の人たちにもお願いすれば
ご主人はもっと早く 見つかるかも知れないのではないですか?
それを 貴女だけで 捜しているなんて、何か訳があるんですね。
話してみませんか?」は 沈んでいる万葉に 言ってみた。
「さん 貴女 人間ではありませんね。
妖怪でもないし いったい何者ですか?
それに ご一緒の男の方達も 八戒さんと悟空さんは妖怪、悟浄さんは半妖、
三蔵さんだけが人間ですね。」万葉は いぶかしげに 皆を見ながらそう言った。
「ええ、ご推察の通りです。
万葉さん、貴女 妖孤ですよね。
以前 側に仕えていたモノに 狐のものがいましたから 妖気でわかりました。
私の事は 解らなくて当然ですよ。地上の者ではありませんから、
でも 貴女に危害を加えたりしませんから 安心して下さい。
三蔵たちも 同様に心配要りませんよ。」
と万葉の話に 後の4人はなかなか付いて行けない。
それまで 黙っていた三蔵だったが、苛々してきたらしい。
「おい 、俺達にもわかるように 説明しろ。」
煙草を灰皿に押し付けながら そう言った。
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